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　「でも、ナイフや銃といった直接的な凶器を使った犯行ならともかく、今回は毒殺です。事前に仕掛けておくことも可能だと思うんですけど」
　「その仕掛ける方法を僕に考えてくれ、とでもいうんじゃないだろうな」
　図星なので薫は黙っていた。やっぱり、と物理学者は口元を歪めた。
　「君は誤解しているようだが、物理は手品じゃない」
　「でも手品のようなトリックを、先生はこれまでに何度も解いてこられたじゃないですか」
　「犯罪トリックと手品とは違う。その違いがわかるかい？」薫が首を振るのを見て、湯川は続けた。「当然のことだが、どちらも種がある。だが、それの処理の仕方が全く違う。手品の場合、演技終了と共に、客が種を見抜くチャンスもなくなる。ところが犯罪トリックの場合、捜査陣は犯行現場を納得いくまで調べることが可能だ。何かを仕掛ければ必ず痕跡が残る。それを完璧に消さねばならないところが、犯罪トリックの最も難しい点だといっていい」