第133页 話しかける日

職業を交換することは、この職能専門化した社会のなかでは、事故のもとになりますが、せめて人格の交換か、意匠の交換によって「他の人間になってみる」ということくらいは、冒険すべきではないでしょうか。
現代では変装は、ペテン師か刑事の特権になっていていますが、むしろそうした日常に波瀾ある人たちよりも、そうでない人たちの方に変装の欲求が強くあるのではないか、というのがわたしの考えです。
きたないことを話す会。
はずかしいことを話す会。
いってはいけないことを話す会。
など、「はなすことが楽しくなる」ような小さい会が、もっと開かれてもよいのではないでしょうか。そしてパーティがおわると人たちが去ってしまうように、話題もことごとく消えてしまうような会の中に、カタルシスを見出せるような会こそが、口承文芸や、即興詩人の育った素地なのではないでしょうか。
知らない人同士が話しかけあっても、それが不良行為とおもわれないような日を一日設けて日本全国が、オープン見合いの日のようにしてみることも必要ではないでしょうか。
すこしずつ、記念日のように設けた「話しかける日」の発展によって、人たちはお互いに自由に知己を持ってゆく。