白塔

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• （六） 熱河では共産八路の浸透対策として、農民の集団居住化をすすめている。もともと匪賊の勢力が強い通化省で試みられたらしい。ここでは“新しい村づくり”と宣伝されている。ばらばらに散らばっていては、八路の恰好の解食になる。 一ヵ所に集めて自警を強めることで彼らの浸透を防ごうという算段である。 翌日一行は真新しい村に案内された。 日ぼしレンが造りの小さな家が何棟も規則正しく建てられている。かなり大きな規模だ。周囲は大人の背丈の半分ほどの土盛りの上に有刺鉄線が張られている。 「こうでもしなければ、手薄のわれわれは農民を護ってやることができないのです」 「多数の者は耕作地から離れることになります。家の周りが島だったときにくらべると、明らかに不便です。それに、ごらんの通りの手狭さです。ただ寝るだけで、住み慣れていろいろな家財道具がそろった家とはくらべようもありません。鼻をつき合わせた共同生活ですから、いざこざもあるようですし」 県公署の役人の説明は正直だ。 「自警組織をつくり、不寝番にも立つょうに指導していますが、どれほどの効果があるかわかりません。夜、八路は自由に出入りしているとも聞かされていますが、確かめようもありません」 「県公署の方で駐在してはどうです……」 「とてもとても、それまで手が廻りません。ある村では夜になると、あっちの教師が子どもたちに共産教育を定例的にやっているといったうわさも絶えません」 そうと、かりにわかってもどうしようもないと、大同学院（倭国の大学·高専出身者を現地赴任前に半年ないし一年間集中教育する機関）出身の副県長は苦波をにじませる。 最後列で話を聞いていた井田章が皮肉っぱくいった。 「これはたぶん間違いじゃろう。縛りつけようとすればするほど、解き放たれようと願うのが人間ちゅうもんだ。逆に八路のつけ入るスキをつくっているかもしれんぞ、大体こっちに便利とい... (查看原文)

  豆友138103404 2022-06-28 17:42:06

• 「農民を一ヵ所に集めるいわゆる集家工作の実態は、昼の説明よりはるかに深刻なんです。数多くのそれは、土塀に囲まれた地獄といってもいい過ぎではない。そこは飢えと疫病の巣窟です。夏のころ私が訪ねた新しい村の一軒には、十六、七歳とおぼしき娘が一人きりでいました。身につけているのは穀物を入れる麻袋の破れたもの。垢にまみれた全裸同然の彼女は、猜疑の目で私を見つめていました。遠くの島に出かけた親といっしょに野良に行きたくても、着るものがないのです。真っ昼間なのに暗い一部屋しかない家に、でっかい銀蠅が乱舞していました。娘の目が異状なまでに白く光っていたのが忘れられないのです」 「秋口でしたか、八路討伐の満洲軍と行動を共にしたことがありました。ある部落を出て峙をくだろうとしたとき、下の方から八路軍が整然と列をつくって登ってくるのが見えました。満洲軍はどうしたと思いますか。あわてて左にそれ、小山のかげに身をかくしたのです。八路軍は私たちのすぐ前を、通りすぎてゆきました。若い兵隊ばかりでした。満洲軍は息をひそめ、ゃり過ごすほかなかったのです」 藤木の大きなからだが、ぶるんとふるえた。 「熱河の阿片のこと、知ってますか」 若い役人が上目づかいに藤木をうかがってそういった。 藤木は首を横に振った。 「古くから栽培されているようです。中毒患者はかなりいるのですが、罌粟の栽培をやめたら食べてゆけないと、農民は他の作物には見向きもしません。なにせ何十倍もの価格の違いがあるのです。しかし罌粟が一面に咲いている様は、それは見事です。初夏の風にゆれて、あの丈の高い大輪の花が波うっているのをみると、これが麻薬になるとはとても思えなくなる」 「密作ですか？」 「許可地域があるのですが、それがその地域にとどまらないのです。それはそうですよね。農民の立場からすれば、高収入から仲間外れにされたくないのは当然といえば当然... (查看原文)

  豆友138103404 2022-06-28 17:42:06

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