「二〇一三年四月二日、歌舞伎座新開場柿葺落の初日に出かけた。この日、いちばん盛り上がったのは、人間国宝や藝術院会員たちの重厚な演技ではなく、中村勘九郎の息子・七緒八が花道を歩いて出てきた時だった。セリフを言うわけでもなければ見得を切るわけでもない。ただ歩いて出てきただけだ。……それなのに、「中村屋」との掛け声と万雷の拍手――こういう光景は歌舞伎ならではのものだろう。こういう世界は、たしかに入りにくい。だが、入ってしまえば、ひとりの幼児の背後にいる何世代にもわたる歴史が見えて、それだけで面白い。」
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