世界の文豪たちの影響を受け、若き日から脚本を執筆することで成長してきた黒澤明。 『七人の侍』をはじめとする傑作脚本の生成・変更の過程を分析し、また他の監督たちに提供した脚本、新たに発見された未映像化脚本も加え、「脚本家 黒澤明」による知られざる創造の秘密を解き明かす。
これまで現存未確認であった幻の脚本など、世界初公開の資料を多数収録!オールカラー。
◆第1章 脚本家・黒澤明の誕生
シナリオの修業が映画監督への道である――日本の映画界にあったこの慣習に従い、若き黒澤明も、師匠である山本嘉次郎監督の薫陶を受けながら、多忙な助監督業務の傍ら脚本の執筆に励んだ。はじめて映画化された『幡随院長兵衛』以来、監督デビューに至るまでの「書く人、黒澤明」の道のりをたどる。
◆第2章 敬愛した文豪たち
黒澤の映画世界に大きな影響を与えた文学者として、ドストエフスキー、シェイクスピア、山本周五郎といった名を欠かすことはできない。こうした文豪の生み出す物語・人間観と黒澤映画の関係を改めて検討するとともに、彼らと並んで黒澤世界に強い影響を与えたバルザックの小説について新たな考察を加える。
◆第3章 『七人の侍』創作の秘密
世界映画史の最高峰のひとつ『七人の侍』は、黒澤と橋本忍、小國英雄の3名の合作による脚本の映画化である。侍たちそれぞれのキャラクターはどのように構想され、肉付けされたのか。またストーリーの構造はいかに構築されたのか。その過程を、新たにアイデアの源泉として注目されるソビエトの文学者ファジェーエフの小説『壊滅』にも触れながら解き明かす。
◆第4章 創造の軌跡Ⅰ――『隠し砦の三悪人』をめぐって
黒澤の作品歴の中でも痛快な娯楽篇『隠し砦の三悪人』のシナリオは、菊島隆三の第1案を膨らませるかたちで、黒澤、菊島、橋本忍、小國英雄の4名が旅館に長期間泊まり込んで書かれた。全体を通した「たたき台」を作らずに各脚本家が同時に各シーンを執筆する「いきなり決定稿」方式で作られた、そのスリリングな生成過程を紹介する。
◆第5章 創造の軌跡Ⅱ――改訂の過程をたどる
力強く太い流れを感じさせる黒澤映画の世界は、脚本の水準でどのように造形されていったのか。『醉いどれ天使』『生きる』『悪い奴ほどよく眠る』『天国と地獄』といった名作群の生成過程、特に黒澤による決定稿の追加改訂への粘りと創造力に焦点をあてる。
◆第6章 創造の軌跡Ⅲ――井手雅人とともに
『赤ひげ』以来、後期の黒澤映画に欠かせない存在となった脚本家が井手雅人である。大作『乱』や、クレジットされていない『デルス・ウザーラ』を含め、国際的な合作映画の製作を志す黒澤を支えた井手の功績を、黒澤との共同作業の様子を伝える貴重な一次資料も含めて明らかにする。
◆第7章 黒澤明が提供した脚本たち
黒澤の功績の中でも比較的光が当たりにくいのが、自身では監督していない執筆脚本の数々である。東宝での同僚であった谷口千吉、本多猪四郎や堀川弘通のほか、数々の名監督のために黒澤は自身の脚本を提供している。本章ではそういった他監督への提供脚本を紹介する。
◆第8章 映像化されなかった脚本たち
いくつもの輝かしい傑作を送り出した黒澤の映画人生は、一方で多くの企画の断念を余儀なくされた挫折の年月でもある。クランクインまで進みながら監督降板となった『トラ・トラ・トラ!』をはじめ、黒澤が心血を注ぎながらも映画化に至らなかった幻の脚本の数々を紹介する。中でも新発見の脚本『ガラスの靴』は必見である。
◆海外での脚本出版と合作用の英訳脚本
黒澤の名作は、その大胆な作劇術により世界の映画人たちの教科書となった。日本映画の英語圏への先駆的な紹介者であったドナルド・リチーのかかわった書籍をはじめ諸外国で出版に至った黒澤映画の脚本と、また外国との合作企画に際して製作費を調達するため必要となった英訳版の脚本を紹介し、黒澤映画の類いなき国際性を示す。
■本書は、以下の展覧会に関連して刊行されました。
脚本家 黒澤明
会期:2022年8月2日(火)―11月27日(日)
会場:国立映画アーカイブ展示室
主催:国立映画アーカイブ
企画協力:槙田寿文
資料作成協力:「脚本家 黒澤明」研究チーム
協力:株式会社黒澤プロダクション、株式会社K&K Bros.
https://www.nfaj.go.jp/exhibition/akirakurosawascreenwriter2022
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