を迎えるまで、家族に起きた不幸や経済的困窮など現実的問題を抱え、しだいに親日的作風へと移行していく。長編『美しき夜明け』(四二年)、『女人戦記』(四四年)などがその代表である。四五年の解放後、「民族の罪人」(四八年)を発表して自らの親日行為を自己批判している。解放後の作品には短編「孟巡査」「ミスター方」「田んぼの話」(四六年)などがある。後に国家の歴史清算の過程で親日反民族行為と規定され親日作家のレッテルを貼られるが、激動期に数多くの作品を残し、量的にも質的にも韓国の近代文学を代表する作家の一人である点では異論がない。
金南天(キム・ナムチョン)
一九一一―一九五三 平安南道(ピョンアンナムド)成川(ソンチョン)生まれの小説家、文学評論家。本名、金孝植(キムヒョシク)。二九年に平壌高等普通学校を卒業後、日本の法政大に入学。朝鮮プロレタリア芸術家同盟(KAPF)東京支部に加入し、会誌『無産者』の同人として活動した。三一年に帰国。同年、KAPFの一斉検挙により起訴され、実刑判決を言い渡された。出所後、服役中の経験を基にした短篇『水』(三三年)など、社会主義的リアリズムを追求した作品を発表。日本の植民地支配からの解放直後、「朝鮮文学建設本部」の結成において中心的役割を担い、四六年には「朝鮮プロレタリア文学同盟」と統合した「朝鮮文学家同盟」の発足を主導した。四七年ごろ北に渡り、最高人民会議代議員、朝鮮文学芸術総同盟の書記長などを務めたが、五三年ごろに粛清されたと伝えられている。代表作に長編小説『大河』、中編小説『麦』など。
李無影(イ・ムヨン)
一九〇八―一九六〇 忠清北道陰城(チュンチョンプクド・ウムソン)に生まれる。本名は李甲龍(イ・カビョン)。一九二五年、高校を中退して日本へ渡り、成城中学に入学後、加藤武雄の門下生となる。一九二九年の帰国後は教員や出版社の社員、雑誌社の記者などを経ながら執筆を続け、一九三一年に『東亜日報』の戯曲懸賞公募で「真昼に夢見る人々」が当選、一九三二年には『東亜日報』に中編「地軸を回す人々」を連載し、作家としての真価を発揮し始める。一九三三年、文芸誌『文学タイムズ』(のちの『朝鮮文学』)を創刊するかたわら、文学同人「九人会」会員として活動。一九三五年、東亜日報社学芸部の記者となるが、一九三九年には軍浦の近くにあった宮村(クンチョン)に移り、自ら農業に携わりながら農村小説を書く。彼の農民小説は大きく三つの時期に区分される。一九三二―一九三五年の第一期には貧困にあえぎ絶望する農民の姿を、一九三九年前後の第二期には逆境にも屈さず人間としての品位と生存意志を保ち続ける農民像を、一九五〇年以降の第三期には収奪と圧迫の歴史的受難を大河小説の形で描いた。主な作品に「明日の舗道」(一九三七)「第一課第一章」(一九三九)「土の奴隷」(一九四〇)『青瓦の家』(一九四二―一九四三、朝鮮芸術賞)『農民』(一九五〇)『農夫伝抄』(一九五六)などがある。
池河蓮(チ・ハリョン)
一九一二―未詳 慶尚南道居昌(キョンサンナムド・コチャン)に生まれる。本名は李現郁(イ・ヒョヌク)。一九四〇年、雑誌『文章』に「決別」を発表し作家となる。仁川(インチョン)にあった昭和女子高等学校卒。KAPF(朝鮮プロレタリア芸術家同盟)の指導者であった林和(イム・ファ)の妻としても知られる。一九四五年八月十五日の光復後は朝鮮文学家同盟に加担し、一九四七年に夫婦で越北するまでに多くの作品を発表した。主な作品に「決別」(一九四〇)「滞郷抄」「秋」(共に一九四一)「山道」(一九四二)「道程」(一九四六、朝鮮文学賞)「クァンナル(広津)」(一九四七)などがある。
【訳者プロフィール】
オ・ファスン(呉華順)
青山学院大学法学部卒業後、渡韓。慶煕大学国語国文科修士課程戯曲専攻修了。共同通信社発行『もっと知りたい! 韓国テレビドラマ』の現地スタッフを経て、現在、韓国を拠点にフリーライター、通訳・翻訳者として活動中。著書『なぜなにコリア』(共同通信社)。訳書『旅立ち』(ソン・スンホン著)、共訳書『公式コンプリートブック 美男(イケメン)ですね』(キネマ旬報社)など。
岡裕美(おか・ひろみ)
同志社大学文学部、延世大学国語国文学科修士課程卒業。二〇一二年、第十一回韓国文学翻訳新人賞を受賞。訳書にキム・スム『ひとり』(三一書房)、イ・ジン『ギター・ブギー・シャッフル』(新泉社)、『李箱文学賞受賞作家による自伝的エッセイ集』(クオン、共訳)がある。
カン・バンファ(姜芳華)
岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、漢陽女子大学日本語通翻訳科、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー日本語科、同院翻訳アトリエ日本語科、ハンギョレ教育文化センターなどで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。日訳書にチョン・ユジョン『七年の夜』(書肆侃侃房)、同『種の起源』(早川書房)、ピョン・ヘヨン『ホール』、ペク・スリン『惨憺たる光』(共に書肆侃侃房)、『私の生のアリバイ』(クオン)など。韓訳書に児童書多数。共著に『일본어 번역 스킬(日本語翻訳スキル)』(넥서스 JAPANESE)がある。
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