鵼の碑

原文摘录   · · · · · · 

• 遠くに燃える碑。 そして窓の外には——。 三つの影法師が並んでいた。 頭に木綿を巻いた白羽織の男。 山仕事の装束のような若い娘。 毛皮の袖なしを着込んだ老人。 「笹村市雄さんと倫子さん、そして——桐山寛作さんです」 中禅寺はそう紹介した。室内に居た全員がのろのろと立ち上がる。市雄が半歩前に出た。 「築山さん、その節は、大変に失礼致しました。他の皆さんのご事情も、こちらから凡てお聞きしております。どうにも擦れ違いばかりだったようで、要らぬご迷惑をお掛け致しました。お初にお目に掛かります。僕が仏師の——笹村市雄です」 市雄は頭を下げた。 倫子と寛作も無言で礼をした。 中禅寺は暫く間を置いて云った。 「わざわざお出で戴き有り難う御座います。実はお渡ししたいものが一つ、そして、昨日申し忘れましたことが一つありますもので、わざわざご足労載きました」 「ほう」 市雄は顔を上げた。 天に月はない。朔なのか。朔に近いのか ただ青白い陰火が遠くに瞬いているだけだ。 市雄はその冷たい光を背に浴びている。白羽織の輪郭が青く浮かぶ。 対する中禅寺は、黒い。その弱弱しい冷光を凡て吸収してしまう程に、黒い。 「僕は昨日申し上げましたように、東京は中野で古書店を営む隠者ですが、同時に武蔵晴明社と云う小さな社を護る——宮守でもあります」 「そうでしたか」 市雄の表情は汲めない。 「神職でも——いらっしゃいましたか」 「そんな大層なものではありません。禰宜や宮司などと名乗るのは烏滸がましい身の上。精精がところ陰陽師のようなものとお考えください。扠、その宮守の先代——僕の祖父から聞いたことです。祖父は若い頃——明治の後半でしょうか。笹村与次郎様と仰る方から、緣あって沢山の書物を託されたのだそうです」 「それは——」 市雄は妹の顔を一度見た。 「はい。あなたの祖父君である与次郎様です。その書物は、元元戲作者の菅... (查看原文)

  吾为冥帝 2024-02-28 17:36:04