構造主義から記号論,ディコンストラクションへ.現代思想では,何をディコンストラクト(解体)するのか.本書は,米国の気鋭の文芸理論家が,テクストの理論,読書行為論,フェミニズム論等の文学理論を中核にすえ,難解といわれる思想・哲学の最新配置図を描いた現代思想の名著.今回,新版として序文を訳出.(全2冊)
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日常会話でも無意識に使われている脱構築という言葉が,現代思想の言葉であることはいうまでもありません.構造主義から記号論,そしてデイコンストラクション(脱構築)へと現代思想はめまぐるしく展開してきました.
しかし,一体何をディコンストラクト(解体)するというのでしょうか.
本書 I に訳出された「25周年版への序文」で著者は次のように書いています.
「かつてデイコンストラクションと言う言葉が第一に言及していたのはデリダの著作だったが,1982年の時点ですでに哲学,精神分析,そして文学研究と深く関わっていた脱構築は,その後桁はずれに強力な知的パラダイムと化し,人文学と社会科学の数限りない諸分野へ自由に拡散して,1980年代,90年代の知的活動を特徴づけたのである.ディコンストラクションという言葉は,哲学,精神分析,それに文学,文化研究に加えて,法律,建築,神学,フェミニズム,ゲイ・レズビアン研究,倫理学そして政治理論などの分野における幅広い徹底的な理論的試行を指すようになった.これらの試みは多様であったが,それぞれの学問領域で根本的であると見なされていた対立的諸概念を批判的に解体しようとする点では共通していた.(中略)
1970年代,80年代に最も強い脚光を浴びたのち,人文科学,社会科学の領域に拡散した脱構築は,その最も広い意味においては,自然であると受けとられているカテゴリーを批判し,意味作用の論理を,平穏な現状を脅かすことを恐れずに,どこまでも分析する強い志向をさすようになっている.疑問や問題があれば,それを解決しようとするより,あえてことを荒立てようとするのである.かくしてそれは,ポストモダンやポスト構造主義の他の潮流とともに,既成のカテゴリーや正典への疑念,また客観性への懐疑をかきたてている」
このような文脈において,実に多種多様な主題と関わって脱構築が論じられているというのがこの原書が刊行されてから25周年が経過した現在の姿とだと思われます.
しかしながら,本書が今でも脱構築への恰好の入門書であることは変わっていないと思われます.米国の代表的文学理論家が執筆した本書のIでは,ニーチェ,ハイデガー,デリダという系譜から問題を捉え直し,デイコンストラクトという主題に迫っていきます.テクストの理論,読書行為論,フェミニズム論などを縦横に駆使することによって難解といわれる思想・哲学の明快な配置図を描き出しています.本書IIでは,文学研究に脱構築が提供する具体的な可能性について言及しています.脱構築の思想でテクストの論理を解読し,メルヴィル,イエーツ,ルソー等の英米仏の文学作品やフロイトなどを具体的に批評していることが示唆的です.
本書 I には「25周年版への序文」が全文訳出されていて必読です.また本書II巻末の文献リストでは,この四半世紀に邦訳された主な文献も紹介してあります.本書を二冊通してぜひご一読いただきますようにお願いいたします.
(本書は1985年に岩波現代選書として翻訳された原書の25周年版を基にして,翻訳されました)
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